角川スニーカーと並んで凋落著しい富士見ファンタジアですが、
出にくい大賞受賞作、というだけのことはあるおもしろさ。
もっとも、物足りない部分もあるんですが、
それは基本の完成度が高い故の贅沢な欲求というべきでしょうか。
記紀神話好きな自分としてはこの設定は、それだけで非常に楽しめる。
その中で桃太郎を上手くアレンジして組み込んだ敵役は秀逸。
ただ桃太郎の独自解釈が非常におもしろかった分、
ちょっとキャラクターとしては弱かった印象。
……うん、キャラクターが全体的に薄味なのが欠点か。
枚数に限りがあるため仕方がないとは思うが、
温羅梓川楊以外の面子がイマイチ印象に残らない。
川楊ももうちょっと裏でいろいろ謀略を張り巡らせる
トリックスター的な位置かと思っていたので、肩透かし気味。
そこまでやるとさらに枚数が足りなくなるか。
一方でなかなかツンデレな温羅が
少しずつ梓と打ち解けていく様子は素直に良かった。
梓のドジっ子ぶりも堂に入っていて読んでいて清々しい。
イラストの印象で落ち着いた不思議系少女かと思っていたが。
受賞三作の評価はおおむね順当。
第十二回電撃小説大賞のように首を傾げることは無く。
とはいえ、第十二回電撃小説大賞銀賞受賞作ほどおもしろかったものも無く。
リバーシブルカバーまでやっちゃうくらい力を入れているようなので、
各作者の次回作には期待したいものです。
……もうちょっと言うなら、
夕なぎの街シリーズの方が好み……